ドキュメント72minutes ~夏休みのタリーズ~
試験期間は空いている時間帯に入り浸って勉強していたし、大学が休みに入った今でも、ふらっと立ち寄ってアイスコーヒー片手に2時間ぐらいボーっとしていることが多い。
初老のマスターがやっている純喫茶みたいな所ももちろん雰囲気があって好きだが、どうしても居心地の悪さを感じてしまう。
逆にスタバとかドトールだと気安すぎてダメだ。中高生が多すぎて疲れてしまう。
これらのちょうど中庸に位置しているのがタリーズだと思う。
カフェチェーンだから入りにくさを感じることは無いし、価格設定がチェーンの中では高めなので中高生が少ない。最高にちょうどいい。
そんなタリーズも、夏休みに入るといつもとは違う顔を覗かせてくれる。
僕がよく利用するタリーズは、最寄り駅前のショッピングモール内にある。
そのショッピングモール自体が夏休みに入ると家族連れで賑やかになるため、必然的にその中のタリーズも小さい子どもを連れた若い夫婦が多くなる。
あれはそんな夏休みの日曜日の事だった。
8月最初の日曜日だったか、僕はいつものように早めに家を出てバイトまでの時間をタリーズで潰していた。店内は混雑していたが、運良くソファ席に座ることができ、マンガアプリを見ていた。
横の席には老夫婦と若い夫婦がちょうどテーブルを挟んで向かい合うような恰好で座っている。
どういう関係なんだろう。好奇心が疼く。
下品だとは分かっているが、横の席なので嫌でも会話が耳に入ってきてしまう。
どうやら老夫婦は妻の両親らしい。
そして話し合っているのはどうも明るい話題ではなさそうだった。
夫「お互い何度も話し合って決めたんですが、性格の不一致ということで〇〇さんとは別れようと思うんです」
は?
ええ?
それ、今ここで言う~~~~~??????
ふつう、家族連れで賑わう日曜日のショッピングモールで家族を解散する話、する??
アカンアカン話題のカロリーが高すぎる
コーヒーではやってられへん
肉を、肉を持って来いと。
そこで僕は周りを見渡してふと思った。
店内を走り回る子ども、そしてそれを𠮟る親、仕事の話をするサラリーマン、勉強する学生。
接客をする店員、老人、老人、老人。
そして隣では別れ話。
ああ、そうか。
そうだったのか。
このタリーズは、世界の縮図だ。
この世界の喜び、悲しみ、その全てがコーヒーの香りに包まれてここには存在している。
このタリーズこそが世界だったのだ。
……? この頬を伝うものは……??
拭っても拭っても溢れてくる……
…もしかして…これが……
エスプレッソシェイク……?