霊長類ヒト目ヒト科受験生
この時期になると、朝の電車で単語帳を開く高校生を見るたびに受験生だった頃を思い出す。
今思い返すと良い思い出かと言われると、そんなこともない。
ただただあの頃の自分は頭がおかしかったな、と思う。
学校へ行き、帰りに予備校へ直行して9時ごろまで勉強して家に帰り11時には寝る生活。
健康的ではあったが、受験が近付くにつれて、勉強時間に比例して増えるガルボと缶コーヒー(KIRIN FIRE)の消費量。
精神的にも経済的にも苦しい時期だった。
その中でも特に苦しめられたのが自分の集中力の無さだ。
というのは、普段から僕はわりと他人の挙動が気になってしまうなど神経質なほうなのだが、受験生の頃はストレスにより神経質さがピークに達していた。
予備校で他人の貧乏ゆすりが視界に入っただけで席を替えていたし、他人の鼻をすする音、服が擦れる音も我慢出来なかったのでイヤホンは必須だった。
こんな状況だったので、センター試験を直前に控えた頃、僕は悩んでいた。
どうするんだ、こんなんじゃ周りが気になって試験どころじゃないぞ、イヤホンも出来ないぞ。
そこで僕は一つの考えに至った。
『自分が一番ヤバい奴になれば周りなんて気にならなくなるんじゃない…?』
怒っている時に、自分より怒っている人を見ると急に冷静になる、という現象に覚えがあるだろう。
発想としてはあれと同じだ。自分が一番挙動不審になれば周りの挙動も気にならなくなるに違いない!なんなら周りが「こいつヤバいな」と思って静かになるかもしれない!
このメソッドを思いついたときは自分を天才だと思った。(ストレスで頭がおかしくなっていたので)
そして迎えたセンター試験当日。
バナナ・餅・コーヒーという脳へのエネルギー供給のみを考えた朝食を済ませ、処方された整腸剤を飲む。お腹を冷やさないようカイロを服の下に仕込む。
よし、自分の準備は完璧だ。お気に入りの音楽を聴きながら家を出た。
そして試験開始の3~40分ほど前に会場に到着すると、すでに他の受験生はまばらに着席していた。
自分の席につくと、斜め前あたりに座っていた人の貧乏ゆすりが視界にちらついた。
以前の自分なら発狂寸前だったかもしれない。
今日は違うぞ、お前の思い通りにいくと思うな、そう心の中で呟いて負けじと両足で32ビートを刻む。
かと思えば、さらに前の席の人が、試験官に「床に映る照明の照り返しが気になるから何とかしてほしい」と主張していた。
試験官は少し話し合ってからブルーシートを床に敷いて対応していたが、
なかなかの神経質だな…さては同じ作戦か?
そうはさせんぞ、この部屋で一番ヤバいのは俺だ!
僕は闘争心をむき出しにして、参考書を手に持ってブツブツ言いながら無意味に室内を歩き回るなどして対抗した。
狂人の完成である。
こうして他人ではなく自分に意識を向けることで、プラシーボ効果みたいなものかもしれないがセンター・二次試験ともに集中できた。
こうして僕は京大に受かりました。
受験生のみなさんも、一度ヤバい奴になってみては?(一切責任は負いません)